茂林寺前駅

お寺と鉄道の関係は案外深い。
寺社参詣は古くからの娯楽であるわけで、
当然鉄道会社も、そこへ向けての路線を
作るのが当たり前であった。
成田山へ参拝客のために作られた京成、
川崎大師への参拝のためにつくられた京急
など、すぐに思いつく。
だから寺社の名前がついた駅というのは、
珍しいものではない。
今回紹介する駅は、群馬県館林にある茂林寺(もりんじ)
というお寺の近くにある駅である。

といっても、茂林寺?という方も多いかと。
しかし、「分福茶釜の昔話を知っている?」と
なると、「ああ、狸が芸をするアレね」と
幼少の記憶を手繰り寄せることに成功する方も
いるのではなかろうか。
この茂林寺は、その分福茶釜の昔話のもとにな
った舞台である。そのためこの昔話が茂林寺前
駅からお寺にかけて看板で読めるという趣向も
楽しむことが出来る。

ちなみに狸が芸(?)をするというので混同し
やすい狸囃子の方は木更津の証城寺である。
さて、観光の玄関となるはずの、この茂林寺前駅
だが、実に佇まいはそっけない。

確かに写真でお分かりと思うが駅前には狸の像がある
わけだが、それ以外にこれといって観光っぽいことは
ない。ホームもいかにも伊勢崎線のローカル駅にあり
がちな相対式二面二線で印象に残るものでもない。
私も含め茂林寺がなければ、地元民でもない限り
この駅に降り立つことはほぼないだろう。

しかし節電の影響もあるとはいえ、クーラーの効いた
車内から、夏の太陽と草の匂いをもろに受ける時に
感じる、旅のちょっとした苦難を含んだ心地よさ。
これは、こういう特別な何かがあるわけでない駅の
方が一層感じられる。だから旅はやめられない。